名古屋地方裁判所 平成元年(わ)2089号 判決 1991年7月17日
(一)
本店の所在地 名古屋市名東区一社一丁目八五番地
法人の名称
株式会社ユニホー
代表者の住居
愛知県一宮市大和町馬引字焼野八番地の三
代表者の氏名
田辺安夫
代表者の住居
東京都八王子市散田町三丁目一番八号メゾンドールミタカ四〇一
代表者の氏名
麦島善廣
(二)
本籍 長野県木曽郡南木曽町吾妻二六四九番地
住居
名古屋市千種区城山町一丁目三五番地
会社役員
麦島善光
昭和一一年七月一四日生
(三)
本店の所在地 名古屋市瑞穂区内方町一丁目一二番地
法人の名称
株式会社麦島建設
代表者の住居
同市同区内方町一丁目八番地の一
代表者の氏名
北原真次
代表者の住居
愛知県尾張旭市庄南町三丁目三番地の四
代表者の氏名
河井充夫
(四)
本籍 名古屋市瑞穂区彌富ヶ丘町二丁目二七番地
住居
同市同区内方町一丁目一一番地
会社役員
麦島善太郎
昭和一四年一二月六日生
右四名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官栗原雄一、大関明各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人株式会社ユニホーを罰金三〇〇〇万円に、被告人麦島善光を懲役二年六月に、被告人株式会社麦島建設を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人麦島善太郎を懲役二年に各処する。
訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人株式会社ユニホー(以下「被告ユニホー」という。)は、名古屋市名東区一社一丁目八五番地に本店を置き、住宅の建築及び販売等の業務を営むもの、被告人株式会社麦島建設(以下「被告麦島建設」という。)は、名古屋市瑞穂区内方町一丁目一二番地に本店を置き、建設業を営むもの、被告人麦島善光(以下「被告人善光」という。)は被告ユニホーの代表取締役、被告麦島建設の取締役として、被告ユニホー及び被告麦島建設の各業務全般を統括していたもの、被告人麦島善太郎(以下「被告人善太郎」という。)は被告麦島建設の代表取締役として、その業務全般を統括していたものであるが、
第一 被告人善光は、被告ユニホーの業務に関し、法人税を免れようと企て、建設用仮設資材の仕入れを架空計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、
一 昭和六一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告ユニホーの実際の所得金額が四億四四八一万一九八一円であり、これに対する法人税額が一億七四六二万〇五〇〇円であるのに、昭和六二年二月二七日、名古屋市千種区振南町三丁目三二番地の三所在の千種税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九四四七万一六〇三円であり、これに対する法人税額が一億〇九五二万三三〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告ユニホーの右事業年度における正規の法人税額との差額六五〇九万七二〇〇円を免れ、
二 昭和六二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告ユニホーの実際の所得金額が六億五五二一万六一二七円、課税土地譲渡利益金額が三億一一七二万五〇〇〇円であり、これに対する法人税額が三億二二〇六万八七〇〇円であるのに、昭和六三年二月二九日、前記千種税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五億七七一三万〇七〇八円、課税土地譲渡利益金額が一億七三八一万七〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二億六二二三万四九〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告ユニホーの右事業年度における正規の法人税額との差額五九八三万三八〇〇円を免れ、
第二 被告人善太郎及び被告人善光は、共謀の上、被告麦島建設の業務に関し、法人税を免れようと企て、建設用仮設資材の仕入れを架空計上するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、
一 昭和六〇年七月一日から昭和六一年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が六億九五九〇万二九五八円であり、これに対する法人税額が二億九四八一万三七〇〇円であるのに、昭和六一年九月一日、名古屋市瑞穂区瑞穂町字西藤塚一番地の四所在の昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億四五五七万八四三六円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が九九八二万五三〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億九四九八万八四〇〇円を免れ、
二 昭和六一年七月一日から昭和六二年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が七億一五三七万八四九〇円であり、これに対する法人税額が二億九五三二万九八〇〇円であるのに、昭和六二年八月三一日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九〇五〇万七六一三円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が一億一六八八万九四〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億七八四四万〇四〇〇円を免れ、
三 昭和六二年七月一日から昭和六三年六月三〇日までの事業年度における被告麦島建設の実際の所得金額が六億二七七八万一七五四円であり、これに対する法人税額が二億五八〇三万五九〇〇円であるのに、昭和六三年八月三一日、前記昭和税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二億九八〇四万三三九九円であり、これに対する法人税額(留保金課税分を除く。)が一億一九五四万九五〇〇円である旨の虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、被告麦島建設の右事業年度における正規の法人税額との差額一億三八四八万六四〇〇円を免れもつて、いずれも不正の行為により、法人税を免れたものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 第一、第五、第六回公判調書中の被告ユニホー代表者田辺安夫の供述部分
一 第一、第七、第八、第一一回、第一二回公判調書中の被告人善光の供述部分
一 第一、第六、第一一回公判調書中の被告麦島建設代表者河井充夫の供述部分
一 第一、第九、第一一回、第一二回公判調書中の被告善太郎の供述部分
一 被告人善光の検察官に対する平成元年一一月三〇日付け供述調書
一 収税官吏作成の被告人善光に対する質問てん末書
一 加藤實、麦島章江、小澤春海(二通)の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の加藤實、麦島章江に対する各質問てん末書
一 検察官作成の電話聴取書
一 株式会社第三銀行堀田支店吉川義明作成の捜査関係事項照会書回答二通
一 押収してあるノート(表紙に「HIGH CAMPUS」と刻印のある、青と黒色の表紙のもの)一冊(平成三年押第四六号符号一)、メモ等(取引日等記載のメモ及び商工中金の計算書等合計一〇枚を黒紐で綴つたもの)一綴(同符号二)、ノート(表紙に「campus」と印刷されたコクヨ製品のもの)一冊(同符号三)、手帳(表紙に「株式会社ユニホー'84」と刻印のあるもの)一冊(同符号四)、手帳(表紙に「株式会社ユニホー'85」と刻印のあるもの)一冊(同符号五)、手帳(表紙に「株式会社ユニホー'86」と刻印のあるもの)一冊(同符号六)、手帳(表紙に「株式会社ユニホー'87」と刻印のあるもの)一冊(同符号七)、手帳(表紙に「株式会社ユニホー'88」と刻印のあるもの)一冊(同符号八)、メモ(メモ合計三四六枚及び薄緑色封筒一枚)一袋(同符号九)
判示冒頭の事実について
一 商業登記簿謄本二通
判示第一の各事実について
一 被告人善光の検察官に対する平成元年一二月四日付け、同月五日付け(二通)、同月七日付け(二通)、同月一一日付け、同月一二日付け各供述調書
一 被告人善光作成の上申書四通
一 松本秀人、高岡義直(二通)、服部圭介、那須善三郎(二通)、上島健司、上野登美子の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の柿澤幸夫、鈴木久男、梅村勝、小熊弘吉に対する各質問てん末書
一 収税官吏村上正義作成の脱税額計算書説明資料
一 収税官吏作成の平成元年三月六日付け(一五通)、同月七日付け(三通)、同月八日付け(検察官請求番号甲27)、同月九日付け(同甲16、28)、同月一〇日付け(同甲19)、同月二四日付け(三通)各査察官調査書
一 株式会社三重銀行名東支店丹羽啓作成の普通預金請求書写し
一 木津信用組合池田支店田中正成作成の普通預金申込書等写し
一 株式会社池田銀行本店営業部大塚象章作成の普通預金入金票等写し
一 株式会社第三相互銀行堀田支店水谷彰作成の普通預金取引印鑑届等写し
一 収税官吏作成の昭和六三年九月一二日付け(二通)、同月一四日付け、同月一六日付け各写真撮影報告書
一 千種税務署長作成の証明書(青色申告の承認の取消通知書写し)
一 検察事務官作成の電話聴取書(「照会の千種税務署」で始まるもの)
判示第一の一の事実について
一 千種税務署長作成の証明書二通(昭和六二年二月二七日申告分、昭和六一年一月一日、昭和六一年一二月三一日事業年度修正申告分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(記録証第二七九号とあるもの)
判示第一の二の事実について
一 千種税務署長作成の証明書二通(昭和六三年二月二九日申告分、昭和六二年一月一日、昭和六二年一二月三一日事業年度修正申告分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(記録証第二八〇号とあるもの)
判示第二の各事実について
一 被告人善光の検察官に対する平成元年一二月八日付け供述調書
一 被告人善太郎の検察官に対する供述調書三通
一 収税官吏作成の被告人善太郎に対する質問てん末書
一 被告人善太郎作成の上申書三通
一 大橋幸男、大蔵利武各作成の上申書
一 収税官吏作成の橋本勝、金井亮英、猪野隆雄、後藤達夫に対する各質問てん末書
一 収税官吏中島洋二作成の脱税額計算書説明資料
一 収税官吏作成の平成元年三月八日付け(検察官請求番号甲42ないし48、50ないし53、56、57)、同月九日付け(同甲60ないし66、71)、同月一〇日付け(同甲58、59、67ないし70、72ないし74)、同月二三日付け(三通)各査察官調査書
一 収税官吏作成の査察官報告書二通
一 収税官吏作成の昭和六三年一一月一〇日付け、平成元年三月七日付け各写真撮影報告書
一 昭和税務署長作成の証明書(青色申告の承認の取消通知書写し)
一 検察事務官作成の電話聴取書(「照会の昭和税務署」で始まるもの)
判示第二の一の事実について
一 昭和税務署長作成の証明書二通(昭和六一年九月一日申告分、昭和六〇年七月一日、昭和六一年六月三〇日事業年度修正申告分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(記録証第一四七号とあるもの)
判示第二の二の事実について
一 昭和税務署長作成の証明書二通(昭和六二年八月三一日申告分、昭和六一年七月一日、昭和六二年六月三〇日事業年度修正申告分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(記録証第一四八号とあるもの)
判示第二の三の事実について
一 昭和税務署長作成の証明書二通(昭和六三年八月三一日申告分、昭和六二年七月一日、昭和六三年六月三〇日事業年度修正申告分)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(記録証券第一四九号とあるもの)
(法令の適用)
被告人らの判示各所為は、各被告会社、各事業年度ごとにいずれも法人税法一五九条一項(被告両会社につきさらに同法一六四条一項)、(被告人善光(判示第二の各所為につき)、被告人善太郎につきさらに刑法六〇条)に該当するところ、被告両会社につき情状により法人税法一五九条二項を適用し、被告人善光、被告人善太郎につき所定刑中懲役刑を各選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告両会社につき罰金刑につき同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、被告人善光、被告人善太郎につき懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をし、その金額及び刑期の範囲内で、被告ユニホーを罰金三〇〇〇万円に、被告人善光を懲役二年六月に、被告麦島建設を罰金一億二〇〇〇万円に、被告人善太郎を懲役二年に各処し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条により被告人らに連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
本件においては、そのほ脱税額は、被告ユニホーにつき二期合計金一億二四九三万円余、被告麦島建設につき三期合計年五億一一九一万円余の多額に及び、またほ脱率は、被告ユニホーにつき二期平均二〇パーセント余に、被告麦島建設つき三期平均六〇パーセント余に達し、しかも右ほ脱のため、被告人善光が中心となり被告人善太郎がこれに協力して、会社ぐるみでの組織的な建設用仮設資材の架空仕入れ計上等をなし、そしてこれにより留保された資産はそのほとんど全部を被告人善光において管理し、被告人善光名義の株式、マンションの購入資金に充てたというものであり、本件は、その態様、結果において極めて悪質、重大であること、そして被告人らが本件犯行に至つた動機は、かつて被告人善光、被告人善太郎が営んでいた事業が倒産したことから、右倒産についての自らの経営能力の不十分さにつき何ら反省することなく、納税の義務をあえて怠りこれによるほ脱分を積み立てて将来の倒産に備えるという経営者として到底採つてはならない判断をしたことにあつたこと、しかも被告人善光、被告人善太郎は、このような国家に対るす納税義務を怠っていながら各種の地域、業界団体の理事等の公職に就き、また被告両会社は地域業界の先進を標榜するなど、被告人らには倫理感の欠如を感じさせるものがあること、これらによれば被告人らの刑責は重いといわねばならない。
もつとも本件が発覚した後、被告人らは捜査官に対しその罪を認め、所定の重加算税等も納付し、前記の留保試算も被告両会社に戻されたこと、被告人善光、被告人善太郎は被告両会社の経営者の地位を後進に譲り、公職も辞退するなど反省の態度が顕著であり、また両名にはこれまで前科前歴がないのみならず、相当の社会的貢献もしてきたこと、被告両会社においては今後同種の事態が再発しないよう一定の組織改革等がなされたこと等被告人らに酌むべき事情も認められるものであり、これら本件にあらわれた一切の情状を考慮して主文のとおり量刑をした次第である。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 北澤章功)